2017-08

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PTAの会議に出て先生たちにメディア・リテラシー教育を要望しよう

情報流通促進計画さんの紹介記事で知った「カナダのメディア・リテラシー教育」という本を読んだ.[上杉 嘉見 (著) ,明石書店 (2008/02),6,510円]

カナダのこの「先進的な」事例に大いに啓発されると同時に,考えてみれば至極あたりまえのことが,なぜ日本の教育者が,また各国の教育者がやっていないのか,ということが強く強く後悔される.自動車が増えれば「交通安全教育」が必要になるように,メディアの影響力が強まればそのプロパガンダから自己を防衛するための教育も重要になるのだ.以前に紹介したように,アインシュタインが60年も前に指摘したことでもある.

もし教育の世界的な「認証評価」の基準があるとすれば,そして我が国が少なくとも民主主義国,「先進」国を名乗るのなら,とっくにこの水準はクリアしていなければならなかったはずだ.「『先進的な』事例」とカッコを付けたのはそういう意味だ.

いわば「コロンブスの卵」だ.言われてみればその通り,なぜ気付かなかったのか,と後悔される.いや,うすうす気付いてはいたが,系統的,組織的な取り組みにしなかったのが大変な失敗だったのだ.もし日本で同じようなレベルのメディア・リテラシー教育が行われていたとしたら,世の中は全然違っただろう.「自己責任」というコピーに代表される資本主義過激派のプロパガンダに騙されず,社会や政治への関心を保ち,少しはまともな政府が選べたはずだ.

小泉が首相になることもなかっただろうし,「ワーキング・プア」が大量に出て,その結果として「蟹工船」がブームになることもなかっただろう.考えてみれば,純粋に文学的鑑賞の対象としてならいざ知らず,80年も前の労働者の過酷な状況がリアルな共感を持って読まれる,などということがあってはならなかった.

驚くことに,この本は大学院の博士論文に加筆したものだという.さわりは何と言っても最終章だ.その中でも白眉は,カナダのメディア・リテラシー教育の教科書が教材として扱う「カルチャー・ジャム」に関する部分だ.この先端的な部分を紹介すれば,他の「穏健な」部分のレベルがどの程度かも想像できるだろう.

この本の主要な内容である,放送や新聞に関する部分を一気にすっとばして,話は「メディアとしての都市空間」に飛ぶ.「カルチャー・ジャム」とは,「広告のメッセージをドラスティックに変える目的でそれをパロディー化したり乗っ取る行為」だそうだ.この運動の推進者は,その名も「アドバスターズ」という雑誌も出している.(「アド」は広告,「バスターズ」は「ゴーストバスターズ」でおなじみ.)活動は雑誌にとどまらない.街頭実践,フィールドワークも行っている.

この活動家たちは,「マスメディア,あるいは都市というメディアを介して発せられる宣伝のメッセージに対抗し,公共の空間において黙殺され続けている不平等なコミュニケーションのあり方を告発する」ために,パロディー広告や街の壁への落書き,さらにはコンピュータへのハッキングまでもやる.メディア教育の教科書はその活動を取り上げ,「誰が都市景観を所有しているのか? 広告主か,あるいはその地域の住民か? 人々が目にするものを,誰が決めるべきなのか?」という問いを生徒に投げかけている.

すなわちこの問いかけは,落書きまでする「カルチャー・ジャム」の活動家について,少なくともその問題意識に関しては基本的に支持する姿勢だとこの本の著者は見る.

日本の状況は「あとがき」で触れられているだけだが,第二版が出るとすれば,これは新しく一つの章に起こしてほしい.

専門書のため高価なので,自治体や大学の図書館に置くことを求めたい.また,著者には,一般向けに書き直した安価な本も是非出して欲しいものだ.

new2st.gif追記:大学としてやれることは,急ごしらえでも教養教育のカリキュラムに「メディア・リテラシー」の科目を入れて,「リメディアル」教育を実施することだ.

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