2017-04

テレビ報道職についての分析—その3

「テレビ報道職のワーク・ライフ・アンバランス: 13局男女30人の聞き取り調査から」という本の紹介の3回目です.結論部分の終章「本調査から見えてきた日本のテレビ・ジャーナリズムの課題」から.メディア問題の重要なエッセンスが込められていると思います.
ふだんインタビューする側の人たちにインタビューした研究の成果がまとめられたものです.
(前回まではこちら:1回目2回目
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223〜226ページ

2 テレビ報道職はジャーナリストではないのか
インタビューした限りでは、日本のテレビ報道職の人たち、特に男性のほとんどが、自分をジャーナリストとは思っていないと、答えている。では、「ジャーナリスト」とはどんな人なのか。彼らがイメージするのは、2章(1)ならびに(2)で説明されているように、「戦場ジャーナリスト」であり、その身分は「フリーランサー」であるようだ。テレピ報道職は、自分たちを「会社の名前を真ん中に書いた名刺をもって仕事をする」「組織をバックにもって仕事をしているからジャーナリストではない」という。その一方で、自分はジャーナリストではないが、自分たちのしていることはジャーナリズムであるという人もいた。

ジャーナリズムについての明確な定義や理念のないところが、ジャーナリスト教育なしでOJTに頼ったことの一つの結果とも考えられる。入社後もジャーナリズムについて系統的に学んでいないので、仕事上守るべきコンブライアンスにより目の前の仕事を遂行しても、一歩踏み込んで、言論・表現の自由や人権問題について、積極的に勝ち取る精神と方法論を学ぶ機会がなかったのではないか。

(1)ジャーナリストについて
「組織の中にいたらジャーナリストではない」のだろうか。ジャーナリストであることや、ジャーナリズムとして機能するということは、労働形態によるのではなく、そこに宿る精神の問題である。実は、テレビ報道職の人たちは、本当はそれを分かつていながら、そう答えたのではないかと筆者は考えている。ひとつには、「ジャーナリスト」を尊敬すべき職業と考えるので、自分はそんな御大層なものではないと言う「謙遜と照れ」の感覚がそこにはあるだろう。もうひとつは、会社組織の中で日々の仕事は必ずしも自分の思い通りにはならず、自分自身も本来あるべき理想の姿とは違う行動をとる。そこで、自分はジャーナリストではないと「言い訳」に使って、立場上やむを得ずに行動する自分を受け入れ、日々の仕事を肯定的に遂行しているのではないか。

「フリーの戦場ジャーナリスト」を真のジャーナリストとするその背景には、テレビ報道職の人たちが、危険な場所に行かなくなったことが原因としてあげられる。筆者の記憶では、1991年の雲仙普賢岳の火砕流事故以降、一層その傾向が強まった。この事故では、報道機関が避難勧告区域の中に入って取材したため報道記者が死亡した。会社としては社員を取材で亡くすことは痛恨事であり、そこまでして危険地域に入り取材する必要があるのかという議論がまず起こった。そのうえ、取材に同行した地元の運転手や、警戒に当たる消防団員・警察官などをも被害に巻き込んでしまったため、メディアの身勝手な行動が地元の人をも死に至らしめたという非難を受けたのである。

それ以後、公的機関から立ち入り禁止要請等があった場合、それに従うことが日本の組織ジャーナリズムの慣例となり、それに違反する人たちへのパッシングが厳しくなった。例えば、1996年、ベルーの過激グループによる日本大使公邸占拠事件では、3週間ほどの謬着状態がつづいた後、テレビ朝日系の取材クルーが取材目的で大使館突入を試みた。これは人々の知りたい欲求に応えるという意味では勇気あるジャーナリストの行動であったが、申し合わせを破ったということで、政府のみならず同僚のマスコミからも非難された。

また、イラク人質事件もそうだ。2004年、イラク取材のフリー・ジャーナリストと、イラクのストリート・チルドレンを救うボランテイア活動の女性、劣化ウランの取材をしようとした未成年者の3人の日本人は、イラクの武装勢力により誘拐され人質となった。彼らは日本政府の方針に反して入国したとして、テロの被害者で、あるにもかかわらずパッシングに遭った。一方で、アメリカのパウウェル元国務長官は、危険の中で取材や子どもの救助をする日本の若者の勇気と行動を讃えていたのである。

イラク取材で、日本の大手メディアの記者たちはヨルダン等の周辺国に避難し、遠隔取材に切り替えた。そして、バグダードの市街戦を実際に中継報道したのはフリーのジャーナリスト達だった。大手メディアは社員には危険を冒させず、フリーの記者に個人的にリスクを負わせて、彼らの取材した映像や情報を利用したのであった。

組織の中には危険を冒しでも取材に行きたい記者もいたであろう。しかし、会社の方針としても、また、日本の大手メディアの同調的行動によっても、今では危険を避けることが最優先される。このような経験を背負っている管理職世代の人たちは、フリーのしかるべきジャーナリストたちに、ある種のコンプレックスを抱いているのではないか。その後もカンボジアやシリアで日本人のフリー・ジャーナリストたちが、厳しい現実を伝えるために現地入りをして命を落としているのをみるにつけ、彼らには忸怩たる思いがあるに違いない。

原子力発電については、メディアは「原子力ムラ」の一員となり、批判的視点を失っていた。テレビの場合、ニュース番組のスポンサーと言えば電力会社が重要な位置を占めていている。ローカル局の場合は特に、電力会社以外の大スポンサーは見当たらないから、利益を優先することが株式会社として当然であるかのようにそれを容認してきた。しかし、考えて見れば電力は地域独占事業だから宣伝は不必要なはずである。そのような経緯があるので、良心的であればある程「自分たちはジャーナリストではない」と言うのではないだろうか。そして、そう口に出して言うことで、ジャーナリストであることをあきらめてもいるとも思う。

(2)ジャーナリズム精神
ジャーナリストではないと言いながらも、テレビ報道職の人たちは、自分たちが果たしている役割には自信を示す。すなわち、「ベンチャー企業や個人では、彼・彼女たちが日々責任を担う報道の仕事の大部分は遂行できない」「まきに企業にいるから、組織で鍛えられて働くから、日々責任を担う報道の仕事を遂行している」と考えている。組織をまとめ、活性化し、若い人を育てていることにも管理職としての存在意義を見いだしている。社会に対しては、継続的に総合的に伝えるべきことを伝える・・・・・・それはフリーのジャーナリストにはできない、と言っている。

ジャーナリズムについての定義が種々あるなかで、新井直之は周辺部分をそぎ落としたエッセンスだけを残し、次のように言っている。

「いま伝えなければならないことを、いま、伝える。いま言わなければならないことを、いま、言う。『伝える』とは、いわば報道の活動であり、『言う』とは、論評の活動である。それだけが、おそらくジャーナリズムのほとんど唯一の責務である。」(新井1986)

これに従えば、フリーの人も組織の人も、そういう精神をもってそのような活動をすればジャーナリズムの活動をしていることになる。いま、インターネットなどでしかるべき発信をしている人は、プロではなくてもその意味でのジャーナリズム活動をしているのである。また、本を出版して原発の問題などを人々に知らせようとする行為も、その活動の一環を担っている。そのうえで、その活動を継続的に行う人が職業的なジャーナリストであり、それを定期的に発信している組織がジャーナリズム機関だといえる。

テレビ報道職の人たちが、その精神をもって活動していれば、当然ジャーナリストと言えるだろう。だが、時として企業利益が優先されて視聴率本位の選択をしたり、ルーティン・ワークの記者会見に臨みそれを批判精神なしで垂れ流したりすれば、彼らはジャーナリストでなくなり、会社はジャーナリズム機関とはいえなくなる、ということになろう。彼らがジャーナリストであるかどうかは、そういう日々の営みの中に、ジャーナリストとしての精神と実践があるかないかによるのではないか。

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