2017-09

「母べえ」と「善き人のためのソナタ」- - 自由にものが言えない世界

もう上映が終わってしまうかもしれないと心配して,ウイークデーの夕方,「母べえ」を観に行った.特高に父親を連れ去られた一家と,そのまわりの人々の生活を描いたもので,'84年の読売新聞の懸賞で選ばれた野上照代という人の小説が原作になっている.

実によくできた映画だと思う.登場人物の一人一人に実在感がある.それらの人々の発する言葉,態度,振る舞いから,1940年前後の日本社会の空気が肌で感じられる.2時間あまりの,ほぼ完璧なタイムスリップ,時間旅行である.どんな教科書よりも優れた現代史の教材になるのではないか,そんな気がする.二人の子役の演技もすばらしく,またとても可愛らしい.

ただし,最後の5分ほどの現代シーンはいただけない.取って付けたようで,誰が誰かがわかり始めた頃,終わってしまう.だいいち戸田恵子をこんなチョイ役で使うなんてけしからん.

自由にものが言えない,実に恐ろしい社会であり,時代であったわけだが,同じような社会状況に取材した作品に2006年制作のドイツ映画「善き人のためのソナタ」がある.これは「母べえ」よりずっと時代が下って,というより,つい最近までそうであった旧東ドイツの監視社会を描いたものだ.これは映画館での公開は見逃し,一週間ほど前にDVDで観た.

これもまた優れた作品だ.悪役側の主人公であるシュタージの職員が,善玉側のもう一人の主人公の劇作家を盗聴するというシーンが大部分を占める.このシュタージ職員を演じたウルリッヒ・ミューエという人は東ドイツ時代からの有名な俳優で,何と彼自身がシュタージの監視の対象となっていたらしい.それどころか,その彼の密告者は妻だったとのこと.

下で紹介するサイトの受け売りだが,ドイツの教育関連の公的機関*は,「当時の監視組織が振りかざしていた権力と,内部の倫理的な葛藤を実によく描いている」として,この映画を授業の教材として使用することを薦めているそうだ.同じようなことはまさに「母べえ」にも言えると思う.

1940年代の日本社会が持つ問題性は決して過去のことではなく,常に今日的な問題だと思う.とんでもないことだと気づいていながら,それに対する「異論」を口にする勇気を欠き,あるいは怠り,そのため,例えばアメリカとの戦争という,破滅の道へと進んでいく.これは,規模やテーマこそ異なるが,今まさにわれわれのまわりで,それぞれの「業界」で,日々進行していることではないのか.その時に,個人の責任に目をつぶる時の合い言葉はもちろん,「シカタガナイ」である.

「母べえ」公式サイト
http://www.kaabee.jp/

「善き人のためのソナタ」の公式サイトは見つからないが,次が詳しい.
http://allabout.co.jp/travel/travelgermany/closeup/CU20070131A/index.htm

----------------
*「連邦政治教育センター」.わが国も,(改悪の前も後も)教育基本法で政治教育の重要性を謳っているのだから.このような機関を作ったらどうだろう.それとも,そんな機関ができたら,今のこの国の状況では,国家主義教育の推進センターになってしまうのだろうか.

コメント

母べえ

 私も「母べえ」をなんとしても観なくては、とチケットを握り締めています。3月14日まで上映されているとのことなので、見逃さないようにします。こちらの感想を拝見していて、ますますその感を強くしました。

やっと観ました

いつもTBありがとうございます。
おしまい、とならないうちにと、思い切って観に行きました。

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