2017-11

大学版「学習指導要領」 その2

1月31日の記事「大学版『学習指導要領』を文科省が企む」のフォローアップです. 

要約

共同通信の記事の「文部科学省は・・・・方針を固めた」という表現が具体的にどのような事象を指すのか不明なため,昨日(2月4日)文科省と共同通信の双方に電話で問い合わせをした.その結果,典型的な「リーク情報による記事」であることが判明した.文科省は何も決めていないと否定するが,共同通信は,確かな情報に基づいており,内部でこのように決めているのは間違いないとのこと.後者が確からしい.

このような事態に対して大学界はほとんど反応していない.

30日の共同通信の報道内容が「文部科学省は・・・大学の学部(学士課程)の教育期間で学生が身に付けるべき知識や技術など教育内容や到達目標を示した指針を、各専門分野ごとに策定する方針を固めた」という表現になっており,具体的に,文科省の誰が,いつ,どこで,どのような発言をしたのかが曖昧なため,直接文部科学省に問い合わせた.担当は「高等教育企画課」という部署らしい.

新聞記事の内容を説明し,いつ,何を,どのように決めたのか,と聞くと,文部科学省の返事は「何も決めていない.1月23日に開かれた中教審の部会(大学分科会の「制度・教育部会」)を取材した記者が推測で書いたのではないか」というような返事だった.

そこで,この記事を配信した共同通信に電話で.「方針を固めた」というのは具体的にどのような事象なのか,つまり誰が,いつ,どこで,何を言ったのかを聞いてみた.返事は,具体的なニュースソースは言えないが,記事の内容は確かだ,とのこと.

以上から,このニュースが典型的ないわゆる「リーク」による報道のパターンであることが分かる.ニュースソースは私人などではなく役所という公的な機関であり権力機関なので,情報源を秘匿しなければならない理由などないはずだ.(内部告発では,情報源は私人であり「機関」ではないので,全く事情が異なる.)権力機関である組織の重要な決定が,情報源も特定されず,つまり責任の所在を完全に曖昧にして,あたかも「うわさ」のような形式で流されているのである.

もちろん,どのような形であれ,政府機関の動きができるだけ伝えられることが望ましいので,報道する側としては,たとえ情報源を伏せても状況をできるだけ伝えたいという気持ちに違いない.しかしこのようないわゆる「リーク情報」は同時に,だれも責任を取らずに「アナウンス効果」で関係者や国民に暗示をかけ世論を誘導することを狙うものなので,報道することでメディアがその片棒を担ぐことにもなる.つまり,まさに報道されることそれ自体によって,その「決定」が本当に,社会的に,「固まる」のだ[註].

このディレンマをメディア関係者はどう考えているのであろうか.このままでいい,あるいはどうしようもない,と言うことでもないと思うが・・・.

報道された事実に関してであるが,どうやらこの「方針」は,共同通信によると,その「固めた」という表現のとおり事実上の決定のようである.しかしその決定プロセスは全く不透明である.いかなる法的根拠で文部科学省官僚がこのような「決定」をできるのだろうか?中教審のどの審議会でもそのような「方針」が決まったわけではないのだ.タテマエは,このような審議会からの結論をもらって,それを政策に反映させる,ということだったはずだが・・・.

このように,審議会の結論が出る前に,役人の側が「方針を固める」という事実が存在することが共同通信によって暴かれたわけだ.つまり,役人があらかじめ路線を敷き,それをなぞった結論を「審議会」に出してもらうというパターンが「疑惑」として存在するが,この具体例が報道として表面に出てきたことになる.

文科省が「固めた」この「方針」の内容自体も前の記事で述べたように大学というものを全く変質させるものだが,それだけでなく,決定プロセス自体の「官主主義」も露見した.にもかかわらずこれに対する大学界の反応が鈍い,というよりほとんど反応していない.学界を代表するような学者たちの発言も見られない.前の記事で「『学問の自由』や『大学の自治』という言葉が恐ろしく摩耗してしまっている」と書いたが,今日の大学界の状態はむしろそれを通り越して,もはや「認知症」と形容すべきだろうか(認知症の方には申し訳ない).リークした文部科学省官僚は,「これで行ける」という感触を持っていることだろう.

ーーーーー
[註] 国立大学の教養部を解体する動きが始まろうとする時の,ある教授会の風景を思い出します.その席上,ある教授は新聞のこの種のリーク情報を示して,「新聞が報道しているくらいだから政府・文部省がこの方針(教養部解体)を固めていることは間違いない」として,「もはや教養部解体の是非を問題にする時ではなく,その準備に移るべきだ」と主張していました.

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