2017-06

権利不況・権利デフレ

凝固するマネー

先月初め頃流されたニュースだが,リーマン・ショック後の大不況にもかかわらず大企業が金を貯め込んでいるという.日刊ゲンダイの記事がいくつかのネットニュースで流れている.その一つ,12月4日のlivedoorニュースの冒頭を紹介すると・・・
それでも「内部留保」を増やし続ける大企業
●10年で倍増428兆円
 11月30日厚労省が発表した「勤労統計調査」によると、サラリーマンの給与は17カ月連続でマイナスだった。昨年来の大不況が労働者の懐を直撃している。ところが、不況にもかかわらず、大企業が内部留保を増やしつづけていることが分かった。売り上げ減、利益減、人件費減なのに、せっせと“貯蓄”だけ増やしているのだ。こんなバカなことが許されるのか。
・・・・・

リーマン・ショックの後だけというわけではない.この記事によると,「日本の大企業はこの10年間で内部留保を2倍に増やしている。97年に209兆円だったのが、10年間で219兆円も増やし、現在428兆円にまで膨れ上がっている。国家予算の約5年分だ」そうだ.

労働者には賃下げや首切りをやっているのに,会社はせっせと「貯金」に励んでいる.これでは不況・デフレが加速するのも当たり前だ.

不況は世界的だが,デフレは日本だけという話を聞く.もしそれが本当なら,なぜ日本だけか,という疑問が当然生じる.その原因(の一つ)についての私の推理を述べたい.

「世間」を気にして権利を主張できない国民

その重要なヒントが私の職場である国立大学で得られる.国立大学の教職員は,昨年夏のボーナス減額にはじまって,本俸も減額されようとしている.当局側の理由は「人事院勧告」に「準拠」するため,というものだ.しかし国立大学の教職員は「法人化」後は公務員でなくなったため,人事院勧告には縛られない.しかも,すでに年度当初に,減額される前の金額で「運営交付金」として大学にお金が渡されているのである.したがって大学首脳部は,ボーナス減額で浮いたお金をどう使うかに頭を悩まされることになる.

問題はこれへの組合の対応だ.何の法的根拠も,合理的な理由もなく,賃金やボーナスが減額されることに対して,まともに抵抗しようとしない.口では「反対」,「不同意」と言うが,行動がない.納得できない時は,最終的にはストライキを背景にした戦術を考えるのが常道だが,執行部は「スト」という言葉を使うことすら避けようとする.なぜか?

それはひとことで言えば要するに「世間が怖い」ということだろう.「世の中にはもっと厳しい状況の人たちもいるし,国の財政も厳しい.税金から給料をもらっているくせに,このようなご時世にストとは何事か」というような「批判」をあらかじめ予想し,「自粛」するのである.(他に想定される「批判」はあるだろうか?)

この想定批判はもちろん非論理的である.国立大学の教職員の賃金を下げたからと言って,そのお金が「もっと厳しい状況の人たち」に回るわけではない.また,その浮いたお金を国庫に返納するということでない限り,「国の厳しい財政」にも何の役にも立たない.(実際,大学当局側は,浮いたお金を「教職員の福利厚生」のために使う,などと言っているのである.)

むしろ賃金として支払った方が(「補正項」的な額とは言え)所得税や消費税としていくらか国庫に戻る.大学が物品や役務を購入した場合は,直接には後者のみが国庫に戻るだけである.「もっと厳しい状況の人たち」の利益という点でも,賃金の方が有利である.大学からは慈善団体などに寄付は出来ないが,個人なら出来る.

このように,賃下げに「実力で」抵抗することには十二分な正統性があるのだが,それをしないのである.このようなメンタリティーは大学教職員に限ったことではなく,この社会で相当一般的なものだと思う.つまり,経済的権利についてきちんと自己主張しない態度が,組合の姿勢にも反映し,冒頭のニュースにあるような,経営者の勝手な振る舞いを放置することになっているのだ.

逆に労働者がストを背景にその物質的利益を守る態度に出れば,会社はこのような過剰な「貯金」など出来ないだろう.つまりマネーが凝固して,いわば「ブラックホール化」してしまうのを抑止できるだろう.

つまり,労働者としての当然の権利を主張しない,行使しないことが,「金の回り」を悪くし,不況とデフレを助長している,そう言えないだろうか?原因のすべてではないにしても,その10~20%ぐらいのファクターとなっていないだろうか?経済学者の意見を聞きたい.

[ 当ブログ内の関連記事 ]
一方的賃下げ(ボーナスカット)に抵抗しない組合を批判する一組合員の意見(09年6月)
おカネの間の引力を補正するための税制(05年10月)

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